3月22日に放送されたNHKの震災報道検証番組「NHKと東日本大震災 より多くの命を守るために」を見ました.
NHKが東日本大震災をどのように伝えたか、問題点はなかったのか、今後はどのように報道すべきかということを当時の報道、そしてそれを聞いて行動した人たちの話を振り返りながら検証したものです.
テーマは大きく分けて
・大津波
・原発事故
・被災者支援
の3つ.
14時46分当時に放送されていた国会中継の途中で表示された緊急地震速報から始まり、臨時ニュースに切り替える状況、放送センターの大量のスタッフの行動など、今見ても緊迫の度合いが伝わってきます.
しかし、あとからこうして振り返ると問題点がいくつもあることが明らかになってきます.
たとえば、最初に伝えられる津波第一波が20cmだったというもの.当初予測では最大6mだったものが第一波20cmということで認識が甘く捉えられてしまったこと.
また、他の地域の状況を伝えたり、大津波警報のエリアが広がったことを先に伝えたことにより、「10m以上」と更新された情報を伝えるのが遅くなってしまったこと.
気象庁から提供される大量の情報を順番に読み上げたことが原因とはいえ、伝えるのが遅すぎたのです.それにより、避難が遅れたという結果になりました.
原発については、初期の情報公開の遅れ、避難の準備を呼びかける報道ができなかったのかということが問題視されています.
16時45分に東京電力が国に対してFAXを送った「原子炉を冷却できなくなった」旨の「15条通報」がひとつの鍵になるはずでした.しかしそれに対して国が出すはずの「原子力緊急事態宣言」がなかなか発令されなかったため、用意しておいた原稿を読み上げることができなかったとのことでした.結局緊急事態宣言を出したのは19時47分.緊急事態宣言が出た以上、避難の準備をするべきであるのに、国は避難の必要がないことを強調.しかしNHKは避難の可能性に触れるなど、見解の相違が出ました.結局はその1時間後に3km圏内、翌朝には10km圏内の避難指示を出すなど、混乱が生じました.
そして翌日15時36分の1号機爆発.しかし停電の影響でロボットカメラが動作せず爆発の状況を確認できず、しかも国や東電に取材しても確認中との返答.そんなまったく情報がない中で生放送中のスタジオに持ち込まれた1号機の原子炉建屋の外壁が吹き飛んで骨組みだけになった映像.下手に発言すればパニックを助長し、かといって最悪の事態を考えれば屋外にいる人が大量被曝をする可能性もあるわけで、ギリギリの状況でどう伝えるか、非常に難しい判断だったそうです.その辺の詳細は書籍「福島第一原発事故と放射線」にも詳しく出ています.
情報がほとんどなく、国も東電もグダグダの状況で明確な報道をすること自体が難しい話だと思うのですが、生死に関わる重要な情報なので視聴者は今すぐにでも知りたいので、本当に難しい報道だったのではないかと思います.
余談ですが、15条通報.東電から保安院に伝達されたのが16時45分なのに、非常時通報用の連絡メールに情報が流れたのは18時近くでした.
被災者支援は、必要な情報をどうやって被災者に伝えるか、状況を他地域に伝えるかということが問題となりました.
たとえば、給水所の情報を伝えるにしても、自分のいる地域の情報を得るのにじっとTVを見て待つしかなく、見逃してしまう可能性もあるということ.
結局、自分の必要な情報を引き出すのにはTVというメディアには限界があり、その対策としてのTwitterやWebなどのサービスにも情報を流して多面化を図る必要性があるという結論に至ったそうです.
今回のような大規模災害が発生すると、携帯電話の基地局も破壊されてしまうし電源の問題もあるので難しい面も多々ありそうですが、情報の多面化をすることで、どれか1つからでも情報を得ることができれば、それによって生命が救われる可能性も広がるので、有効な手段だと思います.
NHKというと脊髄反射的にケチを付ける人もたまにいたりしますが、様々な面でNHKは変わりつつあり、柔軟な姿勢になりつつある印象を自分は受けています.今回の震災でその動きはさらに明確になったのではないでしょうか.この検証番組では伝えられませんでしたが、震災直後からTV放送を個人が勝手にUstremeに流したのを黙認し、途中からはオフィシャルでストリーミングするといった行動もその現れなのではないかと思います.
災害は起きてほしくありませんが、今回の震災をもとにさらに充実した放送を期待します.